Quantcast
Channel: 慰謝料請求ご相談窓口トラブルバスター行政書士事務所
Viewing all articles
Browse latest Browse all 392

<AV問題>抱えた「心の病」 自分を取り戻すことが大切

$
0
0

毎日新聞 2/21(火) 11:45配信

 

 ◇「ウーマンリブの旗手」田中美津さんに聞く(下)

 1970年代に日本のウーマンリブ(女性解放運動)を主導し、現在はしんきゅう師として活動する田中美津さん(73)=東京都八王子市=は、アダルトビデオ(AV)女優という職業について「自分を痛めつけることで心を安定させようとする人が集まりやすい」と見ている。摂食障害やアルコール、ギャンブル依存などにも共通する「嗜癖(しへき)」の問題を考えることが、出演強要などのAVを巡るさまざまな問題を理解するためには不可欠になるという視点からだ。

【動画】「クリエーティブなことに生かして」田中美津さんインタビュー

 嗜癖(アディクション)とは、特定の物質や行為、人間関係に執着し過ぎて行動や感情をコントロールできなくなる--つまり「何かにハマってやめられない」という状態に陥る心の病理を指す。田中さんは「性を解放して生きたい女性にとって、AV女優はいい仕事だと思う」と認めた上で、100本単位のAV出演歴がありながら「強要だった」と訴えた元女優などのケースは「一種の嗜癖だろう」と分析。「その人にとって、嫌なものによって蹂躙(じゅうりん)されることが重要だったのではないか」と指摘する。

 また、自身が幼児期に遭った性的虐待の体験にも言及しつつ、被害者の心の傷が癒えて立ち直っていくためには「人権(回復)の視点だけでは圧倒的に足りない。AV出演で得たプラスの力をクリエーティブなことに生かしていくべきだ」と強調した。【AV問題取材班】

 ◇「痛めつけられて当然なんだ」という気持ち

 --改めて、今回のAV出演強要問題をどう見ているか教えてください。

 田中さん AV出演者も「AVって何だろう?」と考えるきっかけになっただろうし、私のようにAVと縁遠かった者も「女にとって、AVってどんなものだろう?」と思って見るきっかけになりました。そこに一番大きな意味があると思います。たくさんの人が今まで閉じていた世界、「薄々は気が付いていたけれども考えないようにしてきた世界」についてまともに考え始めたというのは、すごいことじゃないでしょうか。

 --ただ、多くの人には「AV業界は非常に暴力的な世界だ」という印象が強まったかもしれません。

 田中さん ひどい人たちはどこにでもいます。それよりも、難しい問題があるとしたら、AV業界というのは「自分を罰したい女」が集まりやすい職場だということです。自分を痛めつけることによって安定する人がいます。自己肯定が難しくて、「私のような人間は痛めつけられて当然なんだ」という気持ちがある。例えば、夫に殴られ続けても結婚生活を続けていたり、やっと離婚してもまた似たような男と一緒になったりする「バタードウーマン」と呼ばれる女性たち。アルコール依存や恋愛依存なども、みんな基本的には同じ「嗜癖」という心の病です。自分が身体的に危うくなるということが、心の深いところで好きなんです。

 やりたくないと言いながら結局、AV出演契約をしてしまう人というのは、そういう深いところで倒錯した自己肯定感を持ちながら仕事をしているのではないでしょうか。数百本も出演して「強要だった」と訴えた人を「何を今さら?」と非難する人もいますが、そういう心の病があることを分かっていないと理解できませんよ。

 --そのような出演者のAVは「嫌がっているように見えず、望んで出ているように見える」と指摘されることもあります。

 田中さん 自分が切り裂かれることは嫌なのですが、「嫌だから」好きなんです。でも長年、AVで自己を表現しているうちに「ちゃんと仕事をし続けた自分」への肯定感が強くなり、病的なものがなくなっていく可能性があります。

 ◇被害者もたくさんの「力」を得ている

 --家庭環境に問題を抱えていたり、性暴力被害体験があったりすると、依存や自傷的な行為に向かいやすいという指摘もあるようです。田中さんご自身、幼児期に遭った性暴力被害を公にしていらっしゃいますね?

 田中さん 私の場合、幼い時にチャイルドセクシャルアビューズ(児童性的虐待)を受けていますが、その恨みつらみだけで(運動に)立ち上がったのではないような気がします。家族に恵まれて、伸びやかに育ったために「怖さ」がなかったから、リブなんてできたんです。「世の男の人を全部敵に回しても、自分以外の何者にもなりたくない」というような気持ちや行為は、そもそも深い自己肯定がなければできないことでしょう。ただ、そのこと(虐待経験)は、女性がこの社会でどんなふうに扱われているかという痛みを感じるため、また他人の痛みを自分の問題として考えるためにはとても役に立ちました。

 --「意に反するAV撮影で傷付いた」と訴えている人に、何か掛けたい言葉はありますか?

 田中さん AV出演がクリエーティブな仕事でなかったのならば、本当にクリエーティブな仕事に関わることによってしか、たぶんその人は癒やされないと思います。そういう人はいろんなものを現場で見たり聞いたり、考えたりしたはずですから、いっぱい力を持っていますよ。ぜひその力を生かしてほしい。私も何らかの形でAV作りに関わりたいと思っているので、一緒にやりませんか?

 ◇「人権」を掲げるだけでは癒やされない

 --強要問題に関しては、さまざまな意見の対立があります。「女性が傷付かない世の中にしたい」という思いは皆、同じはずなのですが……。

 田中さん 「人権を守れ」という人たちと、「私たち(AV関係者)はダメな人間だと思っていない。ただ楽しく仕事がしたい」という人たちの対立に見えます。私は長く運動に関わってきましたが、一度も「人権」という言葉でものを言ってこなかった。自分の中から出てきたものではない言葉を使うのが嫌なんです。

 AV女優さんたちが「これは自分の人権の問題なんだ」という方向で頑張ることによって、横のつながりはできるから、それはそれでいいと思う。でも、それで本当にその人自身が癒やされていくでしょうか? 人権の視点を否定するわけでは決してないけれども、それだけでは圧倒的に足りないんですよ。その人たちが「立ち上がった」というのは重要なこと。でも、「本当に自分を取り戻していくことができるのか」というのはさらに大事なことですから、私はそちらに関わりたいんです。

 --人権を守るため、新たな法規制や監督官庁の設置を求める声もあります。

 田中さん どうかしら。そうなると、もう、運動から引いちゃう人も出てくるでしょう。「世の中の男女関係をそのまま映しているのがAVだ」という視点がなければいけません。(そういった主張をする人には)「あなたとパートナーの関係はどうですか?」「あなたの周りの人たちは男であること、女であることをどう肯定して生きていますか?」という言葉で返してあげないと、ダメですね。立ち上がったAV女優さんを、「世の中に大きな顔ができないようなことに関わってしまった私」という場所に立たせてはいけない。

 「AVみたいなものに出ているダメな私が好きな人」もいるだろうし、とりあえず手っ取り早くお金が稼げるから出ている人、好きな男が業界人だから助けたくてやっている人など、いろんな立場がある。そういう人をひっくるめて「AVは……」と語るのは難しいと思います。だから、とにかく上から見て論じないこと。人権なんていう言葉でひとまとめにせず、名乗り出た一人一人の物語を大事にしていく方が、多くの共感を得られると思います。AV女優だったことによって、マイナスの力も抱えてしまったかもしれないけれど、きっとプラスの力も抱えているはず。そのプラスの力が、これからの人生に役立っていくように支援することが大事なのではないでしょうか。

…………………………

 <ことば>嗜癖(しへき) ある特定の物質や行動のパターンに執着し、のめり込むこと。英語では「アディクション」。習慣や嗜好が強まってコントロールが難しくなり、「周囲に迷惑をかけると分かっているのにやめられない」「それをしないと禁断症状が出る」など病的な依存のレベルにまで進んだ状態のことを言う。アルコールやたばこなどの「物質」、ギャンブルや買い物、仕事、セックスなどの「行為」、恋人や配偶者などとの「人間関係」など依存する対象はさまざまで、本人が依存しているという現状を否認しがちなのも特徴。概念としては軽症から重症まで広い範囲を含み、うち重症化したものが「依存症」と呼ばれ病気として扱われる。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 392

Trending Articles